すちふくろうのブログ

花火、写真、音楽、野球がメインテーマ

【書評】『海賊と呼ばれた男』(百田尚樹著)

 

海賊とよばれた男 上

海賊とよばれた男 上

 

 

 

「夢を売る男」「永遠のゼロ」に続き、私が読んだ百田尚樹氏の作品はこれで3作目になる。

 

『夢を売る男』は出版業界の現状に鋭く切り込んだ、軽快、痛快なブラックコメディで、『永遠のゼロ』は常の死と隣り合わせだった戦時中の神風特攻隊隊員を描いたもの。前者は会話文主体でとても読みやすく、後者は史実を丹念に取材した跡が伺える重厚感のある物語で、全くと言っていいほど共通点がない。

 

この2作品について、とても同じ作家が書いた作品とは思えない違いだったので、この『海賊とよばれた男』がいったいどういう作品なのか、そして百田尚樹がいったいどういう作家なのか、期待感を持ちつつ読み進めた。

 

この『海賊とよばれた男』は2013年の本屋大賞を受賞した作品だ。上下巻合わせて700頁ほどの比較的長い部類に入る小説だが、一気に読ませることができる、読者を引き込む力のある作品だと思う。

 

 

この作品では、国岡商店を一代で築き上げた国岡鐡造の生き様が、克明に記されている。国岡鐡造のモデルとなったのは、出光興産創業者の出光佐三だ。 

私は、過去、こんなにも自分の信念を貫き通した日本人がいたことに、驚きを覚えた。

 

 

国岡鐡造が自分の信念を貫いたエピソードに、「馘首(解雇のこと)はしない」というものがある。会社の経営が傾けば、支出の大半を占める人件費を削らざるを得ないケースが大半だろう。

 

しかし国岡は、決して従業員を馘首することはなかった。

 

「人を育てる」

 

これこそが国岡の人生哲学であり、会社経営の基礎を成していたのだ。

 

そして、石油がこれほど歴史の中で重要な位置を占めていたことも、この小説を読んで初めて知った。石油の利権をめぐって、国家同士が争うことこそが「戦争」が起こる大きな要因になっていた。

 

鐡造を心から慕っている、国岡商店の社員たちの活躍も必見。一読の価値ありだと思う。

 

 

海賊とよばれた男 下

海賊とよばれた男 下